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貢献するSDGs目標
大阪のメインストリート御堂筋の新たなランドマークとして誕生した「東京建物三津寺ビルディング」。築200年以上の木造寺院・ホテル・商業施設が一体となったこのユニークなプロジェクトについて、三津寺の加賀哲郎名誉住職と加賀俊裕住職、東京建物ホテル事業部の今里善則(運用担当)、山田渉(開発担当)が語り尽くします。
前編では、伝統技法である「曳家」も用いた寺院建築の継承がテーマでした。後編では、本プロジェクトが担う歴史・文化の継承についてお伝えします。
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御堂筋に開かれ、より身近なお寺に
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数あるホテルブランドの中から、カンデオホテルズさんがご入居されたことにもご縁を感じています。ラテン語の「光り輝く」に由来するブランド名が本尊の十一面観音に通じると感じて膝を打ちました。宿泊プランにも、朝のお勤めや絵写経※1など、お寺での宗教体験を組み込んでくださいました。
カンデオホテルズさんは、観光に訪れた方へのおもてなしはもちろん、地域の人々とともに文化をつくっていく「地域共創型ホテル」を目指しています。地元の皆さんと手を取り合って日本の文化や伝統を継承していこうという志を持っているんです。
実際に朝のお勤めに参加される方、絵写経を体験される方が増えました。本堂では、「御朱印絵写経」という、絵写経を行っていただく少し変わった御朱印を授与しています。わずか5分程度であっても、仏様を前にして自分の弱さや大切にしているものと向き合う、本来のお参りのありかたを体験していただきたいという想いがあります。おかげさまで、大きくPRはしなくても「日本人は何を大事にしているんだ?」という疑問の答えを探しにこられる方々が多くなったように感じますね。
宿泊客以外にも、近隣の会社員の方が朝の出勤前に寄られると聞きました。
ミナミは商売人のまちですから、信仰心の厚いところなんです。ネクタイ姿の方と海外の方がお勤めで一緒になっているのは、このまちならではの光景ですね。お寺を御堂筋に開いたことでお寺が身近になり、海外の方も気軽に手を合わせてくださる。その姿を見て、日本の若い方が「どうしてだろう」「自分たちの信仰ってなんだろう」といったことを顧みる。そしてまたお寺を訪ねてくださる。そういったうれしい回帰が生まれています。
- ※1 写仏と写経が一緒にできる仏道修行
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コミュニティを次世代につなぐ役割を担う
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このプロジェクトでは本堂を残せたうえに、老朽化が懸案だった庫裏も生まれ変わりました。今はプロジェクトが終わったというよりも、信仰を脈々と続けていく新たなスタートラインに立った気持ちがします。
庫裏では、月参りなどで訪れる檀信徒さんに一息ついていただく茶室も新装しました。工事で解体した部材を床の間などに再利用しています。小さな茶庭もあり、旧境内から引き継いだ石の手水鉢※2を置いています。新たなスペースに合うよう、施工会社の方がわざわざ岐阜の石工さんまで持ち込んで足元を15cmほどカットしてくださいました。
庫裏の2階にはお子さんたちを集めて節句をお祝いするような多目的ルームもあり、お寺が本来持っていたコミュニティを次世代につなぐ役割も担っていきます。
3階には明治期の廃仏毀釈※3で存続できなくなった近隣のお寺からお預かりした仏像などを保管しています。せっかくなのでギャラリーを兼ねたホールで講話をする際などに皆さんにご覧いただいています。心斎橋は今でこそ移り変わりの激しいまちですが、お寺はまちの記憶を留めながら100年、200年、300年という長いスケールでまちと関わりつづけることが大切だと実感しています。
- ※2 手洗い用の水が入った鉢
- ※3 明治政府の神道国教化政策に基づく仏教の排斥運動。
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まちへの想いが循環する場に
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三津寺さんは大阪・ミナミの発展に取り組む「一般社団法人 ミナミ御堂筋の会」にも参加されていて、まちづくりにも積極的ですよね。
お寺の継承とあわせて、地域の方々との交流も継承していこうと考えました。御堂筋の拡幅にあたっては地域の企業と密に意見交換しています。10年、20年ではなく、100年単位でコミュニティに何を残しつないでいくのか、寺院ならではの視点がまちづくりにも必要かと思います。
地域と関わることで「みってらさんがあるから、このまちは安心や」と喜んでもらえるのもうれしいことです。
「門前町」という言葉があるように、もともとお寺は地域の歴史を記録し、想いをかたちにしていく、いわばまちの中心地でした。たとえばお寺が花を育て、受け継ぐことで、まち自体が花の名所として知られていくような。
このビルの竣工を祝う落慶法要※4のときも稚児行列※5を仕立て、古式ゆかしい姿に着飾った地域のお子さんたちにミナミのまちを歩いてもらいました。そういう彩りによって地域に幸せを振りまいていくんです。平成の大改修のときも落慶法要をしていますが、そのときに参加された稚児さんたちが30年を経て親になり、お子さんを稚児行列に参加させてくださるなど、まちへの想いが循環する場にもなっています。
この本堂が残っていることで、全国どこでも同じようなまちになっていく中でも、御堂筋らしさを継承していくことができると思います。
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商業施設もまちの価値向上に貢献します。このビルの地下1階から地上3階には、ヨガウェアで知られるグローバルブランド「ルルレモン」のストアが入居しています。ヨガは仏教との関連も深く、ルルレモンはコミュニティを非常に大切にするブランドです。こちらの境内を使ってヨガイベントなどを開いたら、御堂筋に新たな価値を提供できるのではと、おおいに期待しています。
- ※4 お寺の建物の新築や修繕を祝う儀式
- ※5 法要・祭礼に際して華やかな装束を身につけた子どもたちが練り歩くこと
お寺と地域の100年後に想いをはせて
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最後に2つ質問させてください。ひとつは、ビルが完成して落慶法要に臨んだときの想いを。それから、今このプロジェクトを振り返っての感想を教えてください。
落慶法要に参加した壇信徒さんたちに「本当にいい建物になったね」といわれて、重い決断をした私どもも救われました。皆さん三津寺の檀信徒であることに誇りを持たれています。一方でお寺の再生にどれくらいご寄進が必要なのかと不安だった方もおられた。このプロジェクトによって無事にお寺が維持管理されるという安心感と、本堂が御堂筋に鎮座している姿への感動とで、喜びの声をたくさん伺いました。
私自身も住職を引き継ぐタイミングでしたから、これで歴史あるお寺を次の100年へと地域に残していけるという安堵の気持ちで当日を迎えました。落慶法要で皆さんの笑顔を拝見して、多くの方によってお寺が支えられているんだなとあらためて感じました。参列している家族を思って、ちょっと感極まったシーンもありましたね。
このプロジェクトにおいては、東京建物さんが心から信頼できるところが大きかったと感じています。毎月、プロジェクトの定例会があり、同じ目標に向かって真摯に事業を進めている姿をずっと拝見してきましたから、不安なことが全くなかったですね。こちらの意見も率直にいえましたし、施工会社とのクッション役も十二分に果たしていただいた。ときには喧々諤々の議論になることもありましたけど、つねに寄り添ってくださったと感じています。
私も落慶法要でお寺の全容を拝見して、改めて「すばらしい事業に関わらせていただいた」と感動をかみしめました。住職によるご家族、地域、歴史への想いを込めたスピーチをお聞きした際は、本当に感極まりました。
振り返って感じるのは、三津寺さんが何を求められていらっしゃるのかを深く理解することがいかに重要であったかということです。そのうえで土地のどの部分を使わせていただくのか、建物を活かすのか、経済条件を優先させるのか、しっかり対話しながら最適なプランをかたちにすることができました。三津寺さんはお考えを率直に表明されつつ、こちらの話にも親身に耳を傾けてくださいました。そういった信頼関係があったからこそ、このプロジェクトが実現に至ったのだと思います。
私たちも、本プロジェクトのように木造寺院と一緒にホテル・商業施設を運用するのは初めてのことでした。今回のような価値ある経験を糧として次の事業につなげたいと思います。
東京建物グループはこれからも、地域の想いに寄り添い、歴史・文化を継承しつづけられるようなまちづくりを推進していきます。