Q1 なぜデベロッパーに興味を持ち、東京建物を選んだのですか?
昔から知らないまちに行くのが好きだったことや、大学のゼミで都市社会学を専攻したことがきっかけです。人々の営みの空間である建物やまち自体への興味が強くなり、空間づくりやまちづくりに関われるデベロッパーで働きたいと考えるようになりました。
ビルやマンションをつくるという点では、デベロッパー各社の事業内容にそこまで大きな違いはありません。では何を基準にして選ぶべきか。私は「誰と働くか」を最も大切にしたいと考えました。事業規模やネームバリューを追うよりも、価値観の合う人たちと働く人生を選ぶほうが、きっと自社のことを誇りに思え、生涯後悔しないはずだと思ったのです。
数あるデベロッパーの中で、もっとも社員の雰囲気が自分に合っていたのが、東京建物でした。華やかさよりも実直さや誠実さ、裏に秘めた情熱を持っていて、「波長が合う」という感覚を覚えました。特に印象深かったのは、当時座談会でお会いした社員の方が「人を幸せにすることが自分の幸せなんだ」と熱く語っていたこと。なんのてらいもなく真っ直ぐな想いを口にできることに驚き、本当にかっこいいなと感じました。こんな熱い方がいる会社で一緒に働きたいと思ったことが志望のきっかけです。
Q2 用地取得の仕事の流れについて教えてください。
住宅事業本部では、分譲マンション・賃貸マンション・学生マンションなど、さまざまな物件の開発が行われています。こうした各種プロジェクトの起点となる住宅用地を取得する部門が住宅情報開発部です。用地の情報は、不動産仲介会社様や信託銀行様などへの営業を通してご紹介いただくほか、さまざまなルートで土地所有者様へ直接ご提案をさせていただくケースも多くあります。
用地の情報をいただいた場合、他事業本部と協同してその土地の最適用途を検討します。事業本部を超えて担当者同士で協力がしやすいのは、従業員数が比較的少なく社員の顔が見える当社ならではだと思います。そうして住宅を建てるのがベストと考えられる場合に、住宅情報開発部にて取得に向けた検討を行います。
まずは法規的な観点で敷地調査を行い、設計会社と協力して大まかな建物プランを作成します。ゼネコンへの見積依頼と並行してマーケット調査や事業上のリスクの確認や整理を行い、事業性や取得確度を確認できた場合、社内外の調整を経て購入を申し込みます。そして、地権者様との合意に至れば売買契約・決済お引渡しへと進み、用地取得が完了。以降は事業推進の部門に引き継ぎます。これが用地取得業務の一連の流れです。
Q3 良い土地の取得は難しそうですが、実際いかがですか?
本当に難しいです。まず、金額や立地条件・プランニングなどから当社での住宅事業が成り立つ「良い土地」に出会うこと自体に苦労します。1年で数千件の土地情報を入手し、そのうち社内会議にかけるものは数十件程度。そのほとんど全てで同業他社と競合します。結果、契約に至るのはさらにその半分以下。ある意味、雲をつかむような仕事かもしれません。
もちろん、入札で競合した場合、高い金額を提示すれば購入できる可能性は高まります。ただ、原価が高まるほど事業を成り立たせるためにはマンションの販売価格や賃料を高めざるを得ないこととなりますが、お客様に選んでいただけなければ事業は失敗してしまいます。そこで、金額だけでの勝負は極力避け、地権者様への提案活動に力を入れています。地権者様と何度もお会いして意見を交わし、金額だけでなくさまざまな面でご納得をいただけ、結果的に当社に土地をお譲りいただくケースが少なくありません。東京建物と私個人を信頼していただけ案件が成就し、関係者全員にとって良い結果となった際に最もやりがいを感じます。
Q4 関係者全員が笑顔になった案件があるそうですね?
2020年頃から2年超にわたり取り組んできた都内のマンション事業用地の案件です。その土地は地権者様が数十年にわたりご所有されてきた事業地で、敷地上には築50年超のビルが建っていました。旧耐震ビルであったため耐震性の問題を抱えており、地権者様の不動産の有効活用と当社の事業機会の獲得に向け、関連会社である東京建物不動産販売とともにご提案を行うこととなりました。
東京建物不動産販売は仲介事業や賃貸事業だけでなく、地権者様の有効活用提案を行うコンサルティング事業も行っており、一級建築士が複数在籍しています。私自身入社と同時に東京建物不動産販売へ約3年間出向していたため、この案件は人となりも良く分かるメンバーでの共同提案の機会となり、一層強い思い入れを持って取り組んでいました。
多額の資金を費やすことなくビルの解体と建替えを行い、かつ引き続きビル区画を保有されたい地権者様のご意向を前提条件に、敷地をどのように活用すれば地権者様の資産価値を最も高めることができるのか、東京建物不動産販売と肩を組んでの提案が始まりました。敷地全体に大きな建物を開発し、上層階に分譲マンションを設け、下層階に地権者様がご取得されるビル区画を設ける「等価交換方式」による提案や、敷地を2つに分割して分譲マンションと地権者様のビルをそれぞれ1棟ずつ建てる分離案など、10を超える建物プランを作りながら時間を掛けて最有効のプランを探していきました。
そして1年をかけ、ようやく地権者様にご納得していただける提案が固まりました。それは隣接する土地の一部を地権者様にご取得いただいた上で、最も視認性の高い敷地の角に地権者様のビルを、残りの敷地で「定期借地権方式」による分譲マンションを開発するというものです。大切な事業地をできる限り売却されたくない地権者様のニーズにお応えして、「定期借地権方式」を採用することで地権者様によるビルの建築資金を捻出し、かつ当社も分譲マンションを開発する事業機会が得られることとなります。
このご提案には東京建物グループのノウハウが詰まっていました。隣接する土地は比較的小さなものでしたが、東京建物不動産販売の検証により、この土地を合わせて開発することで法規的により大きな建物を建てられることが判明しました。そして東京建物不動産販売の仲介部門まで協同したことで、地権者様による隣接する土地のご取得が実現しました。ここでようやく、当社として具体的な経済条件のご提案を行うスタート地点に立つことができました。
地権者様のご所有地をどこで分割すれば最も効率良く2つの建物を建てることができるのか、地権者様のご要望を反映させながら東京建物不動産販売と計画を練り上げていきました。同時に金額のご提案に向けた社内外との調整を開始します。開発するマンションが将来的にお客様に支持していただけるよう、かつ地権者様により良い経済条件をご提示できるよう、周辺環境や人気物件の特徴を調べ上げ関係部署と打ち合わせを行ったほか、建物のどこを工夫すれば建築費を安くできるのかなど関係者との協議を進めていきました。そして検討開始から2年近くが経った時点で地権者様へ本提案を行いました。ところが、当社のご提案は地権者様には受け入れていただけず、事業化は暗礁に乗り上げました。まだ競合他社が数社存在しており、当社のご提案した経済条件は競合他社に負けてしまっていたばかりか、地権者様のご希望額にすら達していなかったのです。2年をかけて東京建物不動産販売と最高の提案を作ってきたという自信は、慢心でしかなかったと気付かされました。「できれば東京建物グループと事業をご一緒したいと思っていた」という地権者様の言葉が深く胸に突き刺さりました。
ですが、ここまで熱意を傾けてきた案件を簡単に諦めることはできません。もう一度ご提案の機会をいただき、少しでも経済条件を改善できるよう、建物プランの再検討や、東京建物不動産販売と協同してのご提案内容の再検証を行いました。紆余曲折の上、1ヵ月後の再提案を経て、地権者様から当社の「定期借地権方式」による分譲マンション事業と、東京建物不動産販売のビル建替えにおけるコンサルティング業務を併せてお選びいただけることとなりました。こうして地権者様、協業した東京建物不動産販売にとってベストな結果に至り、生涯忘れられない案件になりました。担当としてBrilliaを作る機会を生み出せたことは非常に嬉しかったですが、それ以上に、一緒に2年以上取り組んできた東京建物不動産販売のご担当者皆様と喜びを分かち合えたこと、そして真剣に取り組んでこられた地権者様からも心から感謝していただけたことが、何よりのやりがいでした。
Q5 小倉さんが描く未来は?
デベロッパーが提供するのは、建物・空間という人が過ごす箱です。そこがどんなものになるかによって、住まい方や過ごし方は変わってきます。そこで得られる経験や、培われる価値観すら変わってくるかもしれません。「あのときこんな経験ができたおかげで、今の幸せがある」。人にそう感じていただけたらデベロッパー冥利に尽きます。私たちの仕事は、人を幸せにする可能性にあふれていると思います。もちろん、用地取得という立場なので、具体的な企画や事業推進には関われませんが、「人を幸せにする」という想いをもった用地取得と、そうでない用地取得では、言葉では言い表せない何かが違うんじゃないかと思うのです。私はこれからも、お客様への想いや願いを大切にしたい。土地をめぐって出会うすべての方々に対して誠実な仕事をしていくことが、幸せな未来をつくるのだと考えています。