ごあいさつMessage to Shareholders

株主・投資家の皆様へ

企業理念「信頼を未来へ」は世紀を超えて息づく

東京建物は、1896年に旧安田財閥の創始者・安田善次郎によって設立された日本で最も歴史ある総合不動産会社で、近代日本資本主義の父である渋沢栄一も創業に深くかかわりました。渋沢は生涯に約500の企業の育成にかかわり、現存する企業は186社ほどといわれていますが、当社はそのうちの1社にあたります。2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)では、「ステークホルダー資本主義」が主題となるなど、資本市場のトレンドは、「株主資本主義」から脱却しつつあります。その点においては、安田、渋沢をはじめとする多くの起業家たちが志し、現在まで連綿と続く、「経済性とともに公益性を重んじる」という日本人の持つ精神は、サステナビリティの考え方をすでに取り入れているといえるでしょう。特に当社は、その精神を色濃く持つ企業であり、これまで、売上や資産規模の拡大を無 理に追 い 求 めるのではなく、「質」も 重 視し、ステークホルダーから「信頼」を得ることを第一義として、事業を営んできました。それが結果的に様々な成果へとつながり、終戦後ほとんどの海外資産を没収され、資産規模の大幅な縮小を余儀なくされた当社が、現在でも国内屈指のデベロッパーとしての地位を確立できている所以であると考えています。間違いなく、「信頼」こそが、今後も持続的に成長していくための生命線であり、その「信頼」を創り出す源泉は、従業員一人ひとりのお客様との向き合い方にあると思っています。私は、当社には、人から好かれる魅力的な従業員が多いと感じています。お客様から「この人と仕事がしたい」という、従業員の評価もよく耳にします。こうした評価の積み重ねが次の仕事へとつながっていくのです。どれだけ大きなプロジェクトも、まずは情報を得ることからスタートしますが、「まずは東京建物さんに」といち早くお声がけいただいて、最終的に案件を確保できることも多々あります。

私たちの企業理念は、世の中の変化が激しくなったこの時代も、そして将来も、不動産テックなどのIT技術が進歩していったとしても、ビジネスは人間がつくるものである限り、決して失ってはならないDNAであると強く信じています。

 

挑戦しない企業にビジョンの実現はない

私たちは、2030年頃を見据えた長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」を掲げ、今後も挑戦をし続けていきます。このビジョンには、サステナブルな社会の実現に向けて様々な課題が顕在化しているなか、私たちが果たす役割も大きく変わるべきという意志を込め、あえて「次世代」という言葉を使いました。私たちの理想とする「次世代デベロッパー」とは、事業を通じて「社会課題の解決」と「企業としての成長」をより高い次元で両立できる組織のことです。そのためには、開発案件のハード、ソフトの両面で革新的なアイデアを追求し、働く場所や住む場所、憩う場所など、人々が豊かに過ごせる「場」を生み出していかねばなりません。場の価値向上を通じて、顧客体験価値を創出し、人々の心豊かな暮らしに貢献することこそが、私たちの最大の社会的価値であり、存在意義であると考えています。

そして、この実現に向けては、創業以来、進取の精神のもと失敗を恐れない覚悟を持ち、果敢に挑戦していくことが大きな原動力となると考えています。過去に、業界で初めて、SPC法(現・資産流動化法)を活用した不動産証券化商品や、自治体本庁舎一体マンション(Brillia Tower池袋)、高層ZEH-M(ネット・ゼロ・エネルギー・マンション、Brillia弦巻)を手がけるなど、企業文化の根底には挑戦への強いこだわりが流れています。

もちろん、こうした挑戦を続ければ、時には失敗をすることもあります。私は、宮本武蔵が残した「われ、事において後悔せず」という言葉を大切にしています。先のことは誰も読めず、明日のことも不確実な時代にあって、物事のやる、やらないを決定するときに、誰しもが失敗を恐れ、進むべき一歩が踏み出せないことがあります。失敗したくないという心理をブレイクダウンしていくと、人は、「失敗したこと自体に耐えられない」のではなく、「失敗したことを後悔する自分の状態に耐えられない」のです。つまり、失敗をしても、それに耐えられる自分がいるという確信があれば、挑戦することへの躊躇はありません。合理的に判断し、行動した結果失敗したことは、反省して次に活かせばいいと前向きに捉えることができるのです。私は、この宮本武蔵の言葉の真髄を経営哲学として常に胸に刻み、日々行動しています。これにより、どんな困難な壁に対しても、全身全霊で立ち向かう企業風土を醸成し、ビジョン実現に向け邁進していく所存です。

 

社会との共有価値を創造していくために

当社は、2020年に新設したサステナビリティ委員会を中心に議論を進め、2021年6月に新たなマテリアリティを発表しました。私はマテリアリティを、長期ビジョンである「社会課題の解決」と「企業としての成長」の両立を実現していくうえでの重要な課題と捉えており、まさにサステナビリティ経営の考えそのものです。マテリアリティは、社会価値創出とその価値創造基盤の両面で検討し、「国際都市東京の競争力強化」「価値共創とイノベーション」「脱炭素社会の推進」「ダイバーシティ&インクルージョン」など、14の重要課題を特定しました。今後は、このマテリアリティを全グループ社員で共有し、事業活動を推進していきます。例えば、「国際都市東京の競争力強化」「価値共創とイノベーション」に関係する具体的施策としては、当社の創業の地である東京駅周辺の八重洲・日本橋・京橋エリアにおいて、大企業、ベンチャー企業、投資家、研究機関など様々なプレイヤーを集積し、交流させることで、新分野の開拓や経済成長の好循環を生み出す「イノベーション・エコシステム」の構築を進めています。この有機的な連携が、同エリアに新たな賑わいと刺激を起こすことを期待しています。また、「脱炭素社会の推進」については、2020年に日本を含む世界の主要国が2050年のカーボンニュートラルを宣言するなど、企業に対しても環境への配慮がますます求められてきています。当社グループでは、温室効果ガス排出量削減の中長期目標を設定し、CO2排出量を2030年度までに2019年度比で40%削減、2050年度までにネットゼロを目指すこととしました。この目標達成に向けて脱炭素の取り組みを加速していきます。

 

不確実な時代に、先手を打つ

2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、ホテル・商業施設の賃貸事業や、駐車場・リゾート施設の運営事業等で、収益の減少がありました。一方で、オフィス賃貸は堅調に推移し、分譲マンションについては、都心部に加え郊外物件の販売が伸張するなど、好調に推移しました。結果として、営業収益は4期連続で過去最高を更新、親会社株主に帰属する当期純利益については、5期連続で増益となり、当社にとっては非常に実りの多い重要な一年となりました。

また、中期経営計画に掲げた事業ポートフォリオ・資産構成の最適化を目指す方針に則り、シニア運営事業を行っていた東京建物シニアライフサポートの全株式を2020年12月に譲渡しました。

2021年度以降も、新型コロナウイルス感染拡大の終息が不透明ななか、経営の舵を取ることになります。一部メディアでは、オフィス不要論を報じており、それが現実味を帯びてくれば、重要なリスクになりますが、私はそうは考えていません。働き方は、テレワークとのハイブリッドな形式に移行していくとは思いますが 、今後AIやロボティクスなどが普及していくなかで、人の創造性はますます重要になっていくと思います。デジタル化がどれだけ進んでも、人と人が膝を突き合わせ、深い議論を行う場は、間違いなく必要です。こうした世の中の価値観の多様化をチャンスと捉え、オフィスビルや分譲マンションをはじめとする当社が提供する「場」の付加価値をさらに高められるよう、しっかりと先手を打っていきます。

 

環境に対応し、成長軌道を確保する

今後の市場環境に関していえば、オフィスについては、当社ポートフォリオの賃料・空室率に大きな影響は現在のところ生じていないものの、企業のオフィス移転の意思決定に時間を要していることから、リーシング期間がやや長引く傾向にあります。マーケットの空室率も上昇してきており、オフィス市況の動向には留意していく必要があると考えています。

分譲マンションについては実需は底堅く、利便性が高い都心好立地・環境良好な郊外エリアともに、販売は好調に推移しています。低金利や株高を背景として、好調なマーケット環境が継続すると見込んでいます。

不動産取引市場は、国内外の投資家による不動産投資意欲は依然として旺盛で、好立地のオフィス、物流施設、賃貸マンションはもちろんのこと、一部に今後の回復を見込んだホテル・商業施設等への投資再開の動きもみられており、マーケットは引き続き好調に推移していくものと予想しています。

短期的には、こうした市場環境への対応を着実に行い、引き続き成長軌道を確保していきます。さらに、中長期的に当社グループが利益を拡大し成長し続けるためには、賃貸利益を着実に増加させていくことが重要になります。しかしながら、2020年に竣工した「Hareza Tower」以降、2025年に完成を予定する八重洲の再開発事業まで賃貸利益の成長の柱である大規模開発の竣工がないため、大幅な賃貸面積の増加が見込めない今後4年間は、分譲マンション事業や投資家向け物件売却の取り組み強化等によって、利益成長を目指していきます。そのなかで現在注力しているのが、物流施設の開発です。急拡大するEコマース市場によって、物流施設への旺盛なニーズは、さらに今後も続いていくと見込んでいます。すでに、投資家向け物件売却の対象不動産は意思決定ベースで総投資額約3,400億円まで増加、そのうち1,100億円強を物流施設で構成しています。幅広い情報ルート、様々な事業会社とのリレーション、ノウハウなどを活用しながら、今後さらに積極的な開発を進めていく予定です。

価値を提供し、期待に応え続ける

前回の中期経営計画(2015-2019年度)は、営業利益の大幅な成長を掲げ、従業員一丸となって計画を実行し、目標を上回る結果を残すことができました。現中期経営計画(2020-2024年度)は、スタート直後から新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けましたが、定性・定量目標ともに進捗は極めて順調です。しかし、過去には、未達に終わった中期経営計画もあり、リーマンショック後には赤字も計上しました。長期的にご支援をいただいている皆様のなかには、当社の力が本物であり今後も順調に計画を達成できるのかを見極めようとしている方もいらっしゃると思います。この点をしっかりと肝に銘じ、引き続き中期経営計画における重点戦略を着実に実行するとともに、経営の透明性や取締役の多様性を高めることによってガバナンスの強化を進め、信頼を未来へつなげる企業であり続けます。そして、長期ビジョンである「次世代デベロッパー へ」の実現を目指していきます。その歩みこそが、顧客・従業 員・取 引 先・地 域 社 会・株 主といったすべてのステークホルダーの皆様への、東京建物グループの価値提供であると私は信じています。

ステークホルダーの皆様には、今後とも当社グループへの理解と一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2021年7月
代表取締役 社長執行役員

野村 均